同じ目線で、紙の価値を世界に届ける〜清水紙工 x TRUNK DESIGN堀内康広さん〜
TETON / 越前漉子 / KIOKU F-TRAD MADE 2025 越前和紙
「F-TRAD」では、福井県内の伝統工芸の職人と
福井県外を拠点とするデザイナーがチームを組み、
現代の生活に合わせてアップデートさせた伝統工芸の商品を
約8カ月かけて開発しました。
「開発ストーリー」では、商品を手掛けた職人とデザイナーに
プロジェクトを振り返っていただき、
開発の裏側やこだわり、ものづくりに対する考えなどを語っていただきます。
さて、二人からどんな話が飛び出すでしょうか。
お話を伺ったのは…
福井県外を拠点とするデザイナーがチームを組み、
現代の生活に合わせてアップデートさせた伝統工芸の商品を
約8カ月かけて開発しました。
「開発ストーリー」では、商品を手掛けた職人とデザイナーに
プロジェクトを振り返っていただき、
開発の裏側やこだわり、ものづくりに対する考えなどを語っていただきます。
さて、二人からどんな話が飛び出すでしょうか。
お話を伺ったのは…
CRAFTMAN

清水紙工
清水聡さん
昭和22年、和紙の加工専業メーカーとして創業。主に、壁紙やパッケージ用紙などを製造。 「さあ、紙の価値を世界に届けよう!」をビジョンに、和紙の加工にとどまらず、社会的価値の高い紙を提案する「paper for good」や、紙について楽しく学ぶラジオ「Rethink Paper Project」といったプロジェクトも行っている。 WEB
DESIGNER

TRUNK DESIGN
堀内康広さん
クリエイティブディレクター / デザイナー。2009年にトランクデザインを、神戸垂水にデザイン事務所&ショップをオープン。 地場産業のプロデュースやブランディング、企業ブランディングなどのディレクションやデザインを幅広く手がけ、2011年には兵庫県のモノづくりを紹介する「Hyogo craft」を立ち上げ、アパレル・お香・木工・陶磁器など地域産業を活かしたオリジナルプロダクトも手がける。近年は兵庫県のみならず、日本全国の伝統工芸のプロデュースやシティプロモーションに携わっている。 WEB
食卓に彩りを添える、和紙のテーブルマット
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ー本日はよろしくお願いします!
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堀内・清水よろしくお願いします!
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ー今回のF-TRADに参加したきっかけを教えてください。

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堀内2022年のF-TRADで清水紙工さんと一緒に「CITON」という
和紙のピクニックシートを開発しました。
そこから一緒にパリや台湾の展示会に出たり、
ツーリズムを作ったりする関係に。
しょっちゅう会っては「こういうの作りたいよね、あれ作りたいよね」とアイデアをふくらませていたときに、
お声がけいただいたのが今回です。 -
清水たまっていたアイデアを形にできるいい機会だと思って参加しました。
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堀内清水紙工がオリジナルで販売している「te」という紙の見本帳があって、
その紙を活かして商品開発しようというのが、
今回の僕たちのサブテーマです。
これまで「書く」「包む」という用途で使われていた紙を、
違う角度のアプローチで使えるシーンを探りました。 -
ー1つ目の商品「TETON」について教えてください。
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堀内「TETON」はテーブルマットです。
「CITON」の姉妹ブランドとして作りました。
サイズは2種類あって、カセットコンロを置くのにちょうどいいMサイズと、
テーブル全体に広げられるLサイズ。色は4色展開です。

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ー「TETON」を開発したきっかけを教えてください。
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清水「千年未来工藝祭」というクラフトのイベントに出展した時に、
手揉み加工を施した和紙をラッピングペーパーとして売っていたんですが、なかなか売れなかったんですよ。 -
堀内ラッピングペーパーっていまいち馴染みがなくて…。
そこで、その場で手書きで「テーブルマット」って
ポップを書き換えたんです。
で、同じ値段で売ったら、すぐに売れて(笑)。 -
ー同じ商品なのに、売り方を変えただけで売れたんですね!
-
堀内そうなんです。「TETON」が生まれたきっかけはほかにもあります。
堀内家では家で鍋をするときにテーブルを汚したくないから
新聞紙を敷くんですけど、見栄えがなんだかなぁって思っていて。
どれだけかっこいい器や土鍋を使っても
敷いてあるのが新聞紙じゃ写真映えしないですよね。
そこから堀内家ではこのラッピングペーパーを
テーブルマットとして愛用するようになったんです。 -
ー「TETON」の特徴を教えてください。
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清水機械漉きの和紙に撥水、耐油加工を施しています。
多少なら水分をこぼしても平気。破れない限りは何度も使えます。

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堀内今回商品化するずっと前から使っていますが、
撥水加工していないものでも、月1回程度使って
2年経っても破れることなく使えています。
価格もリーズナブルなので、買い替えもしやすいですし、
使わないときはくるくるっと巻いてコンパクトに保管できるのも嬉しいですよね。 -
ーパッケージもすごくかわいいですね。

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堀内テーブルマット自体はずっと前にできていたけど、
パッケージがなかなか決まらなかったんです。
清水紙工さんは“紙の価値を世界に届ける”という思いから
「Rethink Paper Project」という紙について楽しく学ぶラジオや
「paper for good」という次世代に向けて紙の可能性を追求する取り組みもされているので、
ここは紙のパッケージにこだわりたいなと。 -
清水でも、紙のパッケージだと中の商品が見えなかったり、
コストが高かったりと課題があって。 -
堀内ある日、聡さんが紙を納品するときに和紙で巻いているのを見て、
「これならいけるんちゃう?」と、同じ方法を採用しました。
工房内でいろいろ試して、
紙で包んでも中身の色や材質がわかるように、
外側には商品と同じ紙を巻いています。
紐も紙の「こより」を使っています。 -
ー今後の展開についてはどうお考えですか?
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堀内「TETON」はキッチン用品を置いているお店で取り扱ってもらえたらと思っています。
以前の僕みたいに、鍋やタコパをするときに新聞を敷いている人って多いと思うんだよね。
一家に1枚あると便利ですよ。

和紙産地の新たな土産物
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ー2つ目の商品について教えてください。これは…張り子ですか?

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清水これは張り子ではなく、「漉子(すきこ)」。
湿った状態の和紙を型で成形した置物です。
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ー和紙を型で漉くとは…?
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清水張り子はちぎった紙を型に張り付けて成形しますが、
漉子は、漉いて間もない湿った和紙を張り付けて成形します。 -
堀内最初は「越前張子」って名前をつけていましたが、
親交の深いプランナーの永田宙郷さんのアドバイスで
「越前漉子」という名前に変えました。たしかに張り子ではない(笑)。 -
ーどうしてこの商品を作ったのでしょうか?
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清水以前から「和紙の産地のお土産を作りたい」と思ってみて、
堀内さんと張り子のような和紙の置き物を作ってみることにしたんです。

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堀内越前打刃物とゆかりがある「狛犬」(越前打刃物の祖・千代鶴国安が砥石で作ったもの)と、
このあたりに出没する「熊」の漉子を考えました。
型は僕が紙粘土で作ったものです。
夏場はずっと神戸の事務所で原型を試作していていたので、
たぶん、スタッフからは「紙粘土で何やってるんやろ」って思われてたと思います(笑)。 -
清水実際に漉子を作ってもらうのは清水紙工とも関係性の深い、
やなせ和紙さんにお願いしました。
型で紙を漉いて作るため、4本足のものは形が複雑で作りにくいと言われましたが、
熊が一番クオリティが高かったです。 -
堀内清水紙工は和紙の加工会社なので、
産地の職人さんと協働するのが仕事のスタイル。
作りたいものに合わせてぴったりの職人さんを
選ぶことができるコンシェルジュ的存在であることは強みですよね。 -
ー越前和紙の置物は新鮮です。
すごく軽いので、まさにお土産にぴったりですね。 -
堀内福井に来て、和紙の工房を見に行って、
紙の神様を祀る大瀧神社に行き、
漉子を買って帰ってもらう流れが理想ですね。
身近なものを和紙で包む
-
ー「KIOKU」について教えてください。
-
堀内2024年の夏に、聡くんや仲の良い越前漆器の職人さん達と
滋賀県でキャンプしました。
2日目に露天風呂でしゃべっていたときに、
「記憶にあるのを和紙でくるんで真っ白にするのって面白くない?」というアイデアが浮かんだんです。 -
ー記憶にあるもの、というと?
-
堀内例えば、みんなが知っているウルトラマンを真っ白にしてみるとか(笑)。
川の石、どんぐりとか、身近にある素材を和紙で真っ白にしてみたら面白い表情になりました。 -
清水川の石は白だけでなく黒の和紙でも覆ってみました。

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ーオブジェのようでかっこいいです。これ自体がアート作品のよう。
白い枝のようなものは何ですか?

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清水これは、和紙の原料である楮の茎を和紙でくるんだものです。
和紙を作るときに使われるのは楮の皮のみで、
皮を取り去った茎の部分はこれまで使い道がなかったんです。
和紙でくるむことで、作品としても和紙を身近に感じられるようなものにしたいなと思いました。 -
堀内白い枝は一輪挿しに挿してもかわいいし、
香りをつけてディフューザーにもなるんじゃないかって。
白い枝を漉きこんだ和紙を作るのもいいよね。

二人三脚で高みを目指す

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ーお二人は仲が良いと聞いていますが、
出会った当時はどのような印象でしたか? -
堀内最初に出会ったのは、2022年のF-TRADでしたが、彼はおとなしくて。
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清水僕は極度の人見知りなので、最初は地獄でした。
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堀内聡くんがしゃべらないから打ち合わせが進まないんですよ(笑)。
最近は千年未来工藝祭など大きなイベントの実行委員も努めあげたから、
少しは人見知りも解消されたかな。 -
ー堀内さんは普段神戸にいますが、
お二人はどれくらいの頻度で会っていますか? -
堀内とにかく毎月会ってます。
僕が夕方に福井に来て、夜飲んで、
次の日会社(清水紙工)で打ち合わせして帰る。
夜は聡くんのほかに、越前漆器の井上徳木工さんと丸廣意匠さんも
一緒に飲むことが多いですね。
僕はそのメンバーを勝手に「トランクファミリー」って呼んでるんです。
「定例会」って名前で毎月お酒を飲んで、
気分が良くなったらみんなで褒め合うのが恒例です(笑)。 -
一同(笑)
-
堀内もちろん、聡くんとはそれ以外にも、
海外に行って一緒にいろんなものを見ているので、
ディスカッションの時間は多いですね。
情報交換しながら清水紙工の技術で
次にどんなものを作ろうかと作戦を立てています。 -
ーF-TRADをきっかけに、そんな関係性が生まれているのは素敵ですね。
-
清水そういやこの後、堀内さんに相談したいことがあって。
清水紙工の新事業としてやりたいことがあるんですよ。 -
堀内ええやん。聡くんがやりたいことをやるのが一番や。
清水紙工はまだまだ新しいことが生まれてくると思うので、
形になったらまたぜひ取材してください!