漆と木の魅力を引き出す、漆器の再編集〜土直漆器 x Zelt柴山修平さん〜
keshiki F-TRAD MADE 2025 越前漆器
「F-TRAD」では、福井県内の伝統工芸の職人と
福井県外を拠点とするデザイナーがチームを組み、
現代の生活に合わせてアップデートさせた伝統工芸の商品を
約8カ月かけて開発しました。
「開発ストーリー」では、商品を手掛けた職人とデザイナーに
プロジェクトを振り返っていただき、
開発の裏側やこだわり、ものづくりに対する考えなどを語っていただきます。
さて、二人からどんな話が飛び出すでしょうか。
お話を伺ったのは…
福井県外を拠点とするデザイナーがチームを組み、
現代の生活に合わせてアップデートさせた伝統工芸の商品を
約8カ月かけて開発しました。
「開発ストーリー」では、商品を手掛けた職人とデザイナーに
プロジェクトを振り返っていただき、
開発の裏側やこだわり、ものづくりに対する考えなどを語っていただきます。
さて、二人からどんな話が飛び出すでしょうか。
お話を伺ったのは…
CRAFTMAN

土直漆器
土田直東さん
土直漆器 代表取締役社長。越前漆器の産地、福井県鯖江市河和田地区にて、漆器づくりにおけるそれぞれ専門の職人を抱え、素地作り以外の全工程(下地、中塗、上塗、蒔絵)を同じ工場内で手がける。伝統的「技」を伝承する一級技能士を含めた熟練のスタッフと女性を含む若いスタッフが多く、ベテランスタッフの伝統技術と若手スタッフの新しい発想、デザイン力をうまく融合し、現代のニーズに応えたものづくりを行っている。 WEB
DESIGNER

Zelt
柴山修平さん
天童木工でデザイナーとして活動後、2014年山形のプロダクトレーベル「山の形」を設立。2020年Zelt(ツェルト)を設立し、2023年に本屋「Zelt Bookstore」をオープン。家具メーカーでの経験を生かし、地場産業や伝統工芸のものづくりから発信へ繋げる場づくりを行う。 WEB
漆の技術とデザインの融合
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ー今日はよろしくお願いします!
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土田こんにちはー。よろしくお願いします。
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柴山土田さん、お久しぶりです。今日はよろしくお願いします。
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ー早速ですが、今回F-TRADに参加したきっかけを教えてください。

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土田当社は漆器の製造をしていますが、最近はちょっと忙しくて
自発的に新作が作れていない状態が続いていたんです。
こういう機会に追い込まれながら作るのも悪くないかなぁと(笑)。
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柴山僕は新卒で入ったのが山形の「天童木工」という家具メーカーで、
そこで地場産業にふれたことから産地のものづくりに興味が湧きました。
F-TRADのお話を聞いて面白そうだと思ったのと
以前から漆に関するプロダクトをやりたかったので、即答で決めました。
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ーお互いの第一印象って覚えていますか?
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柴山漆器は分業で作られますが、
土直漆器さんはその中でも塗りを専門としている会社。
最初にお会いしたとき、
「自分はこのプロジェクトでどんな立場になるのが良いのかな?」と考えましたね。
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土田うちでは期待感がいっぱいで、
「柴山さんがデザイナーとして関わると新しい風が吹き込まれるね」って
社内で話していたんです。
実際に、今回のF-TRADでは「keshiki」というブランドで
4商品も誕生しました。
まさかそんなに出来上がるとは…嬉しい誤算でしたね(笑)。
塗りを活かすため、木地師になる
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ーF-TRADがスタートして約半年ですが、最初にお二人でどんなことを話したのでしょう?
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土田何話したっけなぁ。たしか1つ目の商品の「布袋椀」は
僕が「こういうのを漆器でやりたい」って
柴山さんに伝えたことがきっかけでした。
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ーこういうの、というと?
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土田うちにたくさんある昔の器をあらためて見ているなかで、
木目が浮かび上がるような塗りの表現を見つけて
「これかっこいいなぁ」って思ったんですよ。

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柴山一見、どういう風にすればこういう表現になるのか
わからないような塗り方で。
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土田ビンテージ感があって、それが逆に新しいと感じました。
こういう表現って、ありそうで意外にないので、
「海外でも結構いけるんじゃないか」と、柴山さんに相談したのを覚えてます。
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柴山漆器は木地(椀や盆等の木工品)を加工する木地師や
土田さんのような漆を塗る塗師など、分業でできあがります。
土田さんのお話を聞いて、
「自分は土田さんの塗りを活かすための木地師になろう」と思いました。
僕が木地を提案し、土田さんが塗りで応える。
そんなスタイルで進めたら、このプロジェクトは面白くなるだろうと思ったんです。
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ー実際にどういう風にものづくりが進んでいったんですか?
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柴山「浮造り(うづくり)」という仕上げ方法を使えば、
土田さんのやりたい表現が実現できるかもしれないと思いました。
木の表面を削って凹凸を出す技法なんですが、
本来は家具や建築に多い技法で、漆器ではほとんど使われません。
以前家具メーカーで見ていたので、自分で試してみようと
木地の状態の器を1週間ひたすら金だわしで削ってみたんです。

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ー1週間も!?
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土田すごい根気ですよね(笑)。
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柴山浮造りって本来やわらかいスギの木でやることが多いんですが、
この漆器は硬いケヤキを使っているんです。
削ってもなかなか凹凸のテクスチャーが出なくて苦戦しました。
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土田漆器というと僕らはツルッとさせることが多いので、
逆に木の表面を荒らす表現は新鮮でしたね。
柴山さんが削ってくれた木地を見て、
漆を塗ると面白い表現になりそうだと思いました。
布袋様から由来した名前のとおり、丸くぽってりしたかたちの
「布袋椀」の木目を楽しんでもらいたいと思います。

ショールームに眠っていた商品がヒントに
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ーほかの商品についても教えてください。
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土田「布袋椀」のほか、面取漆器 「十」 「十三」と花器「花の椀」、バイカラーのお盆「片身替盆」ができました。

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柴山「面取漆器」のアイデアは、土直漆器さんのショールームで見つけた
古い漆器がきっかけなんです。
面取りされた縁の部分をよく見ると、漆が薄くなっていて
面の形が際立っているのが分かりますよね。

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ー本当ですね。縁の部分が薄くなることで
面の形がきれいに浮かび上がっていますね。
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柴山そうなんです。
面が多ければ多いほど、面白い表情になると思い
自分なりに多面体の器をデザインしたいと土田さんに提案しました。
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ーそのアイデアを聞いて、土田さんはいかがでしたか?
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土田「いいね!」とは思いつつ、正直ちょっとめんどくせぇなって…(笑)。
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一同(笑)
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柴山この形はろくろではできない形なんですよ。
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土田そうそう。一つずつ大きなノミでカットして作ったもので、
お椀のような「丸物」と、お盆や箱のような「角物」を作る技術が
合わさってできた形なんです。
そういうことができる職人が本当に少なくなっています。 -
柴山その話を聞いて、ますます挑戦したいと思って(笑)。

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土田今回のF-TRADでは、この木地を作ってくれる職人を探すのが大変でした。
柴山さんと一緒に何件もあたったのですが、なかなか見つからず…。
数ヶ月間ずっと探し続けて、
ようやく地元である河和田地区で見つけることができたんです。 -
柴山商品化に間に合わせるためにはギリギリのタイミングでしたよね。
本当に良かったです。

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土田この漆器は10面と13面に面取りされています。
手元に届いた木地を見たうちのスタッフも
「こんな形ができるなんてすごい」と驚いていました。
普通のお椀より塗る時の扱いは難しそうですが、
いい感じに仕上がったと思います。
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ー「花の椀」と「片身替盆」についても教えてください。

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柴山「花の椀」は、新しい漆器の楽しみ方を考える中で生まれたアイデアなんです。
土直漆器のショールームにあるアイコニックなお椀を重ねてみたら、
どの世代にも受け入れられそうな、ポップで親しみやすい形になりました。
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土田当社では花器を作ったことがなかったので、
まさかお椀を重ねた形で商品化できるとは思いませんでした。
でも、F-TRADに参加している他のデザイナーから
「これ、面白いね!」と言ってもらえて、自信が持てました(笑)。
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ー水につけても問題はないのでしょうか?
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土田漆器はむしろ乾燥を一番嫌うので、
基本的に水を入れること自体は問題ありません。
ただし、何週間も水を入れっぱなしにするのは避けて、
定期的に水を交換しながら洗うのがベストですね。
それが一番のメンテナンスになります。
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柴山上下で分割できるので、洗いやすさと保管の面でも理にかなっています。
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ーお盆のツートンカラーも印象的ですね。

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柴山このお盆はもともと土直漆器さんのショールームにあった
「布着せ」という技法で作られたものがベースです。
木地に布を貼って、その上から漆を塗る方法で、
すごくかっこいい仕上がりでした。
それに僕が欲しかった色をツートンカラーで塗ってもらったんです。
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土田お盆は平面ですが
先ほどの多面体とはまた違った塗りの難しさがあって。
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柴山2色で塗ると、色と色の境目に若干凹凸ができてしまうのですが、
土田さんが塗ると、まるで単色で塗ったみたいにフラットなんです。
さすがプロだなと思いました。 -
ーこの色がまたいいですよね。

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柴山黒と朱という伝統的な漆器の色を使いながらも、
現代の暮らしに馴染むデザインになったと思います。
塗り方や用途を含め、漆器の再編集ができたのではないかと思っています。
塗りの表現は無限大。経年変化も楽しんで
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ーお話を伺っていると、すごくスムーズに
商品開発が進んだのかなという印象です。
振り返っていかがですか?
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柴山今回僕たちは、達成したい目標を2つ決めていたんです。
一つ目は「漆の魅力を引き出す」こと、
もう一つは「木の魅力を漆の仕上げによって引き出す」こと。
どのアイデアもゼロから作ったものはなく
すべて土直漆器さんにもともとあった商品や形から着想を得ました。
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土田今回の布袋椀や面取漆器にしても、
漆の良さを再発見してもらいつつ、
使うたびに色が変化していく楽しさも
楽しんでもらえる商品ができたんじゃないかなと思います。

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柴山今回、他にもたくさんアイデアを出していて、
実は4つだけじゃないんです(笑)。
土田さんが「いいね」と受け入れてくれるので、
安心して提案できましたし、責任を持って掘り下げようと思いました。
短い期間でしたが、信頼関係を築けたことが嬉しかったですね。
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土田私が丸投げした分を柴山さんがしっかり形にしてくれました。
私たちは図面が描けないので
思いついたら手を動かして作るスタイルなんですが、
柴山さんの図面は再現性が高くて感心しました。
木地を作ってくれた職人さんも驚いていましたよ。
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ー今後の展開についてはどうお考えですか?
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柴山塗りのバリエーションは無限にあるので、
同じ形でもまったく違う表情のものが作れますよね。
それだけでも今後が楽しみです。
木地の方では、今回の商品のようにひと手間加えられると
まだまだ新しいアイデアが出そうだなという期待感があります。
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土田そうですね。今回いろんな商品を作らせていただいて
すべての商品に愛着があります。
商品化までのプロセスが非常に勉強になったので、
今回の経験を発展させて
新しい商品に活かしたいと思います。
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柴山グラフィックデザイナーにも入ってもらって、
例えばかわいい龍の絵が入った漆器のラーメン鉢なんかも作ってみたいですね。
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土田いいですね!
ラーメン鉢は海外でもすごく人気がありますから。
また次の機会に、ぜひ一緒にやりましょう!