技術とやさしさから生まれた2つの三徳包丁〜加茂刃物製作所 x 石上諒一さん〜
sō F-TRAD MADE 2025 越前打刃物
「F-TRAD」では、福井県内の伝統工芸の職人と
福井県外を拠点とするデザイナーがチームを組み、
現代の生活に合わせてアップデートさせた伝統工芸の商品を
約8カ月かけて開発しました。
「開発ストーリー」では、商品を手掛けた職人とデザイナーに
プロジェクトを振り返っていただき、
開発の裏側やこだわり、ものづくりに対する考えなどを語っていただきます。
さて、両者からどんな話が飛び出すでしょうか。
お話を伺ったのは…
福井県外を拠点とするデザイナーがチームを組み、
現代の生活に合わせてアップデートさせた伝統工芸の商品を
約8カ月かけて開発しました。
「開発ストーリー」では、商品を手掛けた職人とデザイナーに
プロジェクトを振り返っていただき、
開発の裏側やこだわり、ものづくりに対する考えなどを語っていただきます。
さて、両者からどんな話が飛び出すでしょうか。
お話を伺ったのは…
CRAFTMAN

加茂刃物製作所
加茂信介さん、澤田隆司さん
創業80年。2025年に2代目・加茂勝康から3代目・加茂信介に代表を受け継ぐ。
主にレタス・キャベツ・白菜など葉物野菜の収穫用として「野菜収穫包丁」の製造を行う。越前打刃物の鍛造技術で製造された両刃包丁の切れ味を追求している。
WEB
主にレタス・キャベツ・白菜など葉物野菜の収穫用として「野菜収穫包丁」の製造を行う。越前打刃物の鍛造技術で製造された両刃包丁の切れ味を追求している。
WEB
DESIGNER

石上諒一さん
伝統工芸から工業製品に至るまで幅広い視点を取り入れ、手仕事による細やかな表現を製品に活かすことを得意としている。モノだけでなく人と人との繋がりを大切に、工芸・工業の新たな可能性を探り、未来へと受け継ぐために、さまざまなつくり手を結ぶブランドづくりを心掛ける。 WEB
始まりは親子包丁から
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ー本日はよろしくお願いします。
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加茂・澤田お願いします!
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石上よろしくお願いします!
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ーまず、F-TRADに参加したきっかけを教えてください。
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加茂2025年1月に父から代表を受け継ぐことになり、
それを機に新しい取り組みをしたいと思っていました。
弊社は売上の7〜8割が野菜収穫包丁で、
料理包丁のラインナップは2〜3種類のみです。
以前から料理包丁のシェアを伸ばしたいと思っていたところ、
昨年度までF-TRADに参加していた研ぎ師の戸谷祐次さんから
「やってみたらどうや?」と声をかけていただき参加を決めました。 -
石上2022年度のF-TRADでは漆器のデザインを担当しましたが、
当時から包丁にも興味がありました。
僕の活動する京都ではなかなか関われない業種なので、
道具としても製造工程としても気になっていて。
今年度もお誘いがあったので「やりたいです」と二つ返事で答えました。
加茂刃物製作所は、
刃物会社が集まる越前打刃物の共同工房「タケフナイフビレッジ」の中でも、
鍛治と研ぎの両方を担っている会社です。
多くの工程があるなかで1から10までされているので、
どんなものを一緒に作ることができるのか、楽しみでした。

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ー若手職人の澤田さんも一緒に参加されたんですね。
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加茂今回のプロジェクトでは「教育」をテーマに掲げています。
僕も父から包丁作りを教わったし、
使い手側も親から子へと使っていただく。
澤田くんにも包丁を0から作る機会を学んでほしくて、
一緒に参加してもらうことにしました。
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ー今回作ったのは三徳包丁と小三徳包丁ということですが、
どのようなアイデアからスタートされたのでしょうか?

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加茂現在は販売していないのですが、
父が昔、子どもと保護者が一緒に料理をする際に使用する「親子包丁(子ども用包丁)」を作っていました。
タケフナイフビレッジには親子包丁のラインナップがないですし、
全国的に見ても1本ずつ手仕事で作られた親子包丁がないので、
ぜひ作ってみたいと思っていたんです。

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石上初回の打ち合わせで、
加茂さんから「親子包丁を作りたい」とオーダーをいただきました。
そもそも、子どもが使う包丁とはなんぞやというところで、
越前市だけでなくほかの刃物産地…例えば大阪・堺市の刃物ミュージアムやショップを回って、
形や大きさ、価格帯をリサーチしました。
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ーリサーチしてみていかがでしたか?
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石上既存の親子包丁は、先っぽが丸くて小さく、
握り方まで誘導するような柄の形状のものが多いことがわかりました。
刃も薄いので簡単なものしか切れません。
でもそれらの商品は、年齢制限があったりと使い手が限定されてしまう。
そこで、今回は子ども専用ではなく、
子どもから大人まで幅広い年齢層の方に使っていただける
三徳包丁と小三徳包丁を作ってみてはどうかと提案しました。
やさしさと使いやすさの両立
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ーそこからどのようにデザインしていったのでしょうか。
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石上形状については、
お子さんの安全面を考慮しつつ料理にしっかり使える包丁として、
3つのポイントを工夫しました。

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石上1つ目が、切っ先(先端)を丸めている点です。
加茂さんの既存の包丁よりもアールをとってふくらみを持たせることで、鋭利な印象をやわらげながらも、
料理にしっかりと使える実用性を実現しました。
2つ目はあごの部分。
アールを外に逃すことで、手と刃物の距離がほどよく離れ、
手が当たっても痛くありません。
あごを大きめに面取りするのは堺の包丁に多い作り方ですね。
3つ目の木柄については、「縦丸型」という新しい形状を採用しました。
料理人の中には柄の根元を握る方も多いので、
刃との長さのバランスも考慮しました。 -
加茂柄は越前で作っているところが少ないのがネックで…。
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石上そうなんです。
そこで、柄の仕入れを安定化するために、
今回は大阪・堺市の辰巳木柄製作所にお願いすることにしました。
越前と堺のいいところを取り入れて、
安全面と機能のバランスをミリ単位で検証したのがこだわりです。 -
ー何回か試作したのでしょうか?

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石上大きく分けて2回ですね。
加茂さんにはなるべく実物の形状を見てもらいたいと思っていたので、
最初は自社の3Dプリンタで見た目の検証を重ねました。
福井には2〜3回訪問し、
加茂さんやタケフナイフビレッジにいる
他社の職人さんからも多くのフィードバックをいただきました。
できあがった試作品も、
自分も含め知り合いの料理人に使っていただくなど、
使う人だけでなくデザイナーや職人など
作り手たちの声をもとにブラッシュアップしていきました。
親子包丁でありながら、プロの料理人も問題なく使えるクオリティになったと思います。
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ー商品のこだわりポイントを教えてください。

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加茂1番のこだわりは、子どもが使える包丁でありながら、
大人でも使いやすい刃のつけ方をしている点です。
石上さんのデザインを見て、ブレード(刃)の形についても、
見た瞬間にものすごくいいなと思いました。
さすが石上さん。実際使ってみても本当に使いやすいです。 -
澤田僕はブレードの製造を担当しているんですが、
材料の選定や、研ぎの薄い/厚いなど、切りやすさにこだわって作りました。 -
石上小三徳包丁は刃渡りが13.5センチと、
一般的な子ども包丁とほとんど変わらない大きさに。
子どもだけでなく、コンパクトな包丁を使いたい
大人の方にも本格的な料理に使っていただけます。 -
ー商品開発をしてみて、いかがでしたか?

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石上僕自身、包丁のデザインをするのは初めてだったので、
今回のF-TRADはいちから勉強させていただく気持ちでのぞみました。
リサーチを重ねる中で感じたのは、
包丁のように形がそのまま機能として顕著に表れる道具は珍しいのではないか、ということです。
さらに、包丁の部位ごとに名称があり、
それぞれに必要な機能があることを知り、奥が深いなと思いました。
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加茂これまでは作り手にとって作りやすい形を作ることが多かったので、
見た目の美しさや使い手の目線から意見をいただけて、
勉強になることばかりでした。
同じ材質で同じような形でも、あごや先端のアールの形で研ぎ方が変わるので、
作っていて面白かったです。
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澤田包丁を作るときは、
同じものをいくつも作れるように型を用意するんですが、
今回は初めて作る形なので、
材料を選定したり計ったりするところから携わることができました。
職人としていい勉強になりました。
作り手とデザイナーの良好な関係
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ーF-TRADがスタートして、お互いの関係性は変わりましたか?

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石上タケフナイフビレッジは
デザイナーの川崎和男さんと作られてきた歴史があります。
最初はデザイナーに対してどのような考え方を持っているのか、
距離感を確かめながら進めていましたが、
加茂さんとは密にやりとりをしながら開発ができました。
意向をスムーズに汲み取っていただけたと思います。 -
加茂これまで既存の商品をマイナーチェンジすることはあったけど、
デザイナーさんとともに商品を作るのは初めてでした。
最初こそ「デザイナー=先生」という一方的なイメージがあったんですが、
石上さんとは同じ目線でお互いに意見を言いながら作ることができました。
本当にいい方に出会えたなと思います。 -
ー石上さんがコミュニケーションで心がけていたことはありますか?
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石上距離を縮めるためになるべく多くごはんに行くことですかね。
僕が福井に行ったときに一緒にランチしたり、
加茂さん達が関西に来てくれたタイミングで食事に行ったり。
加茂さんより私の方が若いですが、
たくさんコミュニケーションをとることでお互いの性格も見えてきて、
いろんな話がしやすくなりました。
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ー今後の展開についてはどうお考えですか?
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加茂最終デザインが決まったら量産体制に入りたいと思います。
材料は注文してから半年先にしか来ないので、
100本200本単位で作れるように準備したいです。
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石上店頭では実物に触れて購入してもらいたいですし、
デザイナーとしてはパッケージやリーフレット、説明書などのビジュアルでも伝えていきたいです。
今回作ったものは親子包丁という売り方はしないですが、
お子さんが包丁を使っている写真も入れて、
より幅広い方に手にとってもらいたいと思っています。
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加茂将来的には、海外で販売できる体制も構築したいですよね。
今後も料理包丁のラインナップを増やしたいので、石上さん、またお願いします!