守る、祈る、収める。越前箪笥がたどり着いた「現代の厨子」〜小柳箪笥店 × スタジオ発光体(岩元航大さん・大島淳一郎さん)〜
福井県外を拠点とするデザイナーがチームを組み、
現代の生活に合わせてアップデートさせた伝統工芸の商品を
約8カ月かけて開発しました。
「開発ストーリー」では、商品を手掛けた職人とデザイナーに
プロジェクトを振り返っていただき、
開発の裏側やこだわり、ものづくりに対する考えなどを語っていただきます。
さて、両者からどんな話が飛び出すでしょうか。
お話を伺ったのは…
CRAFTSMAN
WEB
DESIGNER
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まずは、F-TRADに参加されたきっかけから教えてください。
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小柳
これまでも自社で商品開発は続けていましたが、
正直、限界も感じていました。
自分たちだけで考えていると、どうしても視野が狭くなるというか、
発想が固まりやすいんですよね。
そんな中で、外から新しい考え方や提案をいただける
F-TRADには以前から注目していました。
今回は「新しいチャレンジをしよう」という気持ちで参加を決めました。
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岩元
僕はTSUGIから声をかけていただいたのがきっかけです。
シェア工房を運営しながらプロダクトデザイナーとして
活動しているところを見ていただいていたみたいで、
「家具職人さんとのコラボどうですか?」と。
面白そうだなと思って、わりと即答で「やります」とお受けしました。 -
大島
僕も同じく、声をかけていただいたのがきっかけですね。
福井でF-TRADが続いていること自体は知っていて、
過去のプロジェクトも含めて力のあるプロダクトが生まれている
印象がありました。
なので、参加できるならぜひ、という気持ちでした。
福井は、ものづくりの熱が集まる場所
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福井の伝統工芸については、もともとご存知でしたか?
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岩元
はい。
数年前から、福井がものづくりの町として
勢いのある取り組みをされている県だということは、
いろんなプロジェクトを通じて知っていました。
だから「福井でやる」と聞いて、すごく腑に落ちたんですよね。 -
大島
僕は福井に直接行ったことはなかったんですが、
製品としては以前から知っていました。
F-TRADの過去の事例やブランドも含めて、
ものとして強いプロダクトが作られている場所だなという認識がありました。 -
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初めて顔を合わせたとき、お互いの第一印象はいかがでしたか?
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岩元
最初にお会いしたのは、F-TRADに参加するデザイナーさんたちと
一緒に訪れた産地ツアーでした。
その時に、小柳さんは
「受け継がれてきた木工技術をどう継承していくか」
をものすごく大切にされている方だなと感じました。 -
小柳さんの工場で鉋(かんな)を使わせていただいたときに、
0.0何ミリみたいな薄い木屑が削れたんです。
その時の皆さんの表情がすごく印象的で、
「技術が生きている現場だな」と思いました。
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大島
僕は、手作業で作られるクオリティが想像以上に精巧で、
正直びっくりしました。
自分たちが普段デザインしているものとは
比べられないくらいの完成度の高さがあって。だからこそ、ある意味すでに完成されているものを、
どういう切り口でデザインしていくのか。
最初は少し不安もありましたね。 -
小柳
僕は最初、「お二人で一つのプロダクトを作るのかな」
と思っていたんです。
でも、見た目も考え方も全然違うお二人で。
後からそれぞれ別の提案が出てきたときは驚きましたし、
「二つ作るの!?」って正直戸惑いもありました。
でも今は、それも含めていい経験をしているなと感じています。 -
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普段からお二人(スタジオ発光体)は協働されることもあるのでしょうか?
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岩元
プロジェクトによりますね。
一緒にやることもあれば、同じクライアントに対して
それぞれのアイデアを出すこともあります。
そもそも大島さんと僕って、思考回路が結構違うんです。
大島さんは量産性とか、広く届けるプロダクトとしてどう成立させるかを考える。
一方で僕は、作家の世界観というか、美術品として
買われるような“作品”を目指す感覚が強いですね。 -
大島
そこが面白さでもありますよね。
同じテーマでも、違う角度から着地できるので。
厨子という、日本の暮らしの原点
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今回のテーマが「厨子(ずし)」に決まった経緯を教えてください。
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岩元
最初は、箪笥そのものを新しく提案するのは
リスキーだと思っていました。購入する人が年々減っていますから。
だから、ホームユースのプロダクトを提案していたんです。
でも途中で、「それって小柳箪笥さんで作る意味があるのか?」
という結論に行き着いて。
越前箪笥の歴史を掘っていくと、もともと越前の職人さんは
“箪笥ではなく厨子を作っていた”という源流が見えてきました。 -
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改めて「厨子」とはどういうものなのでしょう?
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岩元
もともとは中国で、食材や大切なものを入れる箱として
台所に置かれていたものがルーツだと言われています。
それが日本に仏教が入ってくるタイミングで一緒に入ってきて、
仏像などを納める箱として使われるようになりました。 -
仏壇との大きな違いは、厨子の方が汎用性が高いところです。
仏像を納めて手を合わせてもいいし、
亡くなった家族の大事な品を納めることもできる。
いまの時代に合った“間口の広い箱”だと思います。法隆寺に収められている国宝の厨子に、当時の職人が書いたとされる
「越前」という文字が残っている、という話も知って。
それが決定打になりましたね。 -
小柳
最初はカジュアルな提案もいただいていましたが、
「自分たちが作る理由があるのか」という点では、
僕も少し引っかかっていました。僕らとしては、越前箪笥を知ってもらいたいし、
この産地で職人がものを作っているということ自体を表現したい。
その意味で、厨子という提案は、越前市の文化や歴史を
紐解いたときにすごく妥当性がありました。何より、1300年前からのストーリーに思いを乗せられる。
その強さが良かったですね。
光に手を合わせる、祈りの厨子
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ここから二つの「小柳の厨子」について伺います。
まずは岩元さんの「光」をテーマにした厨子について教えてください。
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岩元
仏壇にLED照明が入っているものもありますよね。
あれをもっと美術的に表現できないか、と思ったのがきっかけです。 -
厨子は汎用性が高いので、仏教に限らずいろんな方が使う可能性がある。
そう考えたときに、
「どの宗教にも共通して光に神聖さを見出す」
という点に着目しました。そこで、“光に対して手を合わせる”というコンセプトで、
二本の柱の間から光が漏れる形に行き着きました。 -
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柱の造形も印象的です。
加工にはどんなこだわりがあるのでしょう? -
岩元
柱は機械ではなく、鉋で削り、小柳さんの加工技術を
しっかり見せることにこだわりました。
角材から角をどんどん落として、多面体にしていくんです。
手作業なので完全な円筒ではないんだけど、
面の連なりで円筒に見える。そうすると光の回り方に
グラデーションが生まれて、美しく見えるんですよね。 -
小柳
僕らは最初、精度とか緻密さをテーマに考えていたんですが、
鉋でやるといい意味でランダムさが出るんですよね。
そこを岩元さんが「いいですね!」と言ってくださって。
庵のように、心を置く小さな場所
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続いて、大島さんの「庵(いおり)」をモチーフにした厨子について教えてください。
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大島
厨子や仏壇って、部屋の中に“もう一つ小さな部屋”
があるような空気感があると思うんです。
そこだけ時間の流れ方が違うような、ミニチュアの家みたいな。庵は修行僧が一人で時間を過ごす場所で、
日常の部屋とは切り離された神聖な空間でもある。
その価値観が厨子と近いと感じました。 -
それと、小柳さんがこれまでトライしていないエリアとして、
既存の高級な箪笥とは別の“作りやすいモダンなデザイン”で、
価格を抑えて部屋に迎え入れやすいものを目指しました。 -
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からくり構造も取り入れられているのですか?
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大島
はい。
背面に薄いスペースを作って、隠し収納のようにしています。
小柳さんのからくり箪笥の構造を取り入れた形ですね。
小柳さんの歴史や作る流れが入ることで、
普通の家具屋さんが作るものとは違うものになる。
そこは小柳さんにも一緒に考えていただいた部分が大きいです。
越前箪笥が受け継いできた意味を考えた時間
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お互いに「すごいな」と感じた瞬間はありましたか?
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小柳
岩元さんは、すごくアーティスティックで、形だけじゃなく、
その裏にあることをしっかり捉えている。
ストーリーまで含めて考えているところが本当にすごいと思いました。
大島さんは逆にすごくロジカルで、形のセンスやシンプルさが洗練されている。
寸法の理由も含めて、計算されたデザインだなと感じます。 -
岩元
僕は、最初の提案が通らなかったときに、小柳さんの“芯”を感じました。
一筋縄ではいかないというか(笑)。
守るべきところは守って、崩すところは崩す。
その判断ができる方だと思いました。 -
大島
小柳さんは、単純に物を作る職人さんというより、
一人の作家さん的な考え方を持っている方だと感じました。
「自分が作るならこうするべきだ」というものづくりの強さがある。
そこをリスペクトしながらデザインに向き合わないといけない、
という緊張感がありましたね。
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小柳
越前箪笥には「守る」という意味が二つあります。
ひとつは鍵やからくりで物理的に守ること。
もうひとつは、文様などの縁起の良さで、
家族が守られるという“お守り”的な要素です。そういう安心感を持つプロダクトになってほしい、
という思いを汲み取ってもらえたのが嬉しかったです。 -
大島
1年間のプロジェクトの中で、最初の提案が通らなかったことも含めて、必要なプロセスだったと思います。最初から相手のブランドや価値観を100%酌み取るのは難しい。
一度提案して、方向性の違いを知って、そこからより良いものに向かっていけた。だからこそ今の形になったと思っています。 -
岩元
他のコラボチームだと、
ある程度「何を作るか」が決まっていることも多いですよね。
箸メーカーさんや和紙の職人さんなどは、
プロダクトの方向が見えやすい。でも僕らは“0から、何のプロダクトをやるか”を
決めるところから始めなければならなかった。
そこはハードルが高かったです。
でも結果的に、全員が納得できるものが出来上がりつつあるので、
嬉しいですね。
暮らしに寄り添う厨子
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最後に、この二つの厨子をどんな方に使っていただきたいですか?
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小柳
厨子って、100年200年と家庭の中で安心感を与えてきた存在だと思うんです。
購入してくださった方には、デザインや作り手の気持ち、
コンセプトが伝わるようにあってほしい。
そして、その家庭が守られて、
安心感を与える存在になってくれたら嬉しいですね。 -
大島
既存の厨子に抵抗感がある方や、和室がなくなっていく中でも、
「祈り」や「大切なものを入れる」という概念として、
モダンなデザインを選択できる可能性を準備できたことが嬉しいです。選択肢のひとつとして、
自然にそこにあってくれたらいいなと思います。 -
岩元
信仰心が薄くなっていると言われる今の日本の中で、
このプロダクトを通して「誰を想うのか」「何を想うのか」を
立ち止まって考えられるといいなと思っています。家族の絆を再確認するような、
人と人とのつながりをもう一度考えるきっかけになれば、
50年、100年と長く使っていただける
ものになるんじゃないでしょうか。
