あくなき和紙への追求から生まれたアートオブジェ〜やなせ和紙 x DAYS. 西尾 健史さん〜
福井県外を拠点とするデザイナーがチームを組み、
現代の生活に合わせてアップデートさせた伝統工芸の商品を
約8カ月かけて開発しました。
「開発ストーリー」では、商品を手掛けた職人とデザイナーに
プロジェクトを振り返っていただき、
開発の裏側やこだわり、ものづくりに対する考えなどを語っていただきます。
さて、両者からどんな話が飛び出すでしょうか。
お話を伺ったのは…
CRAFTSMAN
DESIGNER
和紙の良さを活かしたプロダクトとは
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今回、F-TRADに参加されたきっかけについて教えてください。
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晴夫
以前、デザイナーさんと一緒に
「Harukami」シリーズという和紙の箱を作ったことがありました。
そこから少し時間が空いたので、
また新しいことに挑戦したいと思っていた時に
F-TRADのお誘いをいただいたんです。 -
翔
うちのラインナップは、高いものでも1万2〜3,000円程度なのですが、
もう少し高価格帯の商品も作ってみたいと思っていました。
なので、F-TRADはちょうどいいタイミングでしたね。 -
西尾
僕はふだん展示会やショップなどの空間をデザインすることが多く、
最近では福井駅すぐのスーヴェニアショップ
「SAVA!STORE」の内装を手がけました。
その時にお店で扱ってる商品を見て、
せっかくなら内装だけじゃなくて、
お店に置く商品もデザインしたいなと思って…。
そんなタイミングでお声掛けいただいたので、
すごくありがたかったです。 -
ー
西尾さん、やなせ和紙さんの第一印象はいかがでしたか?
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西尾
お二人ともめちゃめちゃいい人で(笑)。
僕の提案にもすごく興味を持ってくださって、
新しいことに挑戦したいという熱意を感じました。 -
晴夫
そうでしたか。それは嬉しい(笑)
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西尾
工房の様子を見せていただいた時に
お二人の手漉きに対する強いこだわりや紙への探究心をひしひしと感じました。
これはただ売れる商品を作るよりも
柳瀬さん自身が「面白い」と感じられるものを形にして
それが結果として商売につながる方がいいのかなと思いました。 -
ー
そこからどのように進めていったのでしょうか。
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翔
まず「高価格帯の商品に挑戦してみたい」という話を
西尾さんにお伝えしました。
そこからうちの強みを活かしたものを作ろうという方向になりましたよね。 -
西尾
そうでしたね。やなせ和紙さんは手漉きで、
チリ一つない無地のものから複雑な模様のある大判のものまで
さまざまな紙を漉くことができます。
日頃から漉き方の実験をしていて、常に新しい模様を追求しているんです。 -
晴夫
お客様からいろんなご要望をいただくので、
面白そうなものがあれば紙漉きに応用できないか、いつも考えていますね。
どんな注文にも応えられるように試行錯誤しています。
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西尾
そこで、最初は天井に吊るすモビールのようなオブジェを提案しました。
柳瀬さんたちにもいろんな和紙で試していただきましたよね。 -
翔
はい、和紙の表情を楽しむにはどんな柄がいいのかをいろいろテストして、
西尾さんの事務所にサンプルを送っていました。 -
西尾
ただ、天井から吊るすと、光源が直接目に入ってしまうんです。
それにランプシェードのように下から光を当てても、
いかにも「光が当たっています」という感じになって少し興醒めしてしまう。和紙の良さって何なのだろうと考えていた時に、
たまたま目線と同じ高さで和紙に光が当たった様子を見て、
すごく美しいなと感じました。 -
ー
和紙の表情は、光の当たり方で随分変わるものなんですね。
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西尾
次に、事務所にあった半立体の木工に、
和紙を貼ったらどうなるかという実験をやってみました。その時に気づいたんです。
そもそもやなせ和紙さんが漉いているのは襖紙や障子紙。
どちらも枠に貼られて自然光を受けるからこそ、
その美しさが際立つんだなって。
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晴夫
最近は住宅事情の変化とともに障子紙や襖紙の需要が減っているけど、
障子に光が当たり、パーっとやわらかく広がっていくのは
和紙ならではの美しさやからね。 -
西尾
和紙の美しさを活かした新しいかたちを半立体でできたら
すごく面白そうだと思い、
そこからプロダクトの形が少しずつかたまってきました。
やわらかな光をまとう、アートオブジェ
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ー
あらためて、今回のプロダクトについて教えてください。
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晴夫
和紙のアートオブジェ「rynka(リンカ)」です。
楕円型の木枠に柄の異なる半円状の和紙を貼ったもので、
光が当たると和紙特有のやわらかな表情を楽しんでいただけます。 -
ー
この形は、どのようなところから着想を得たのでしょうか?
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西尾
従来の障子紙のようなフラットな枠では自立が難しいので、
今回は「障子のアップデート」を目指しました。
建具として建物に組み込まれるものではなく、
それ自体が独立した存在感を持つデザインにしたいと考えたんです。やなせ和紙さんは和紙で立体的な造形を作ることも得意なので、
半立体に立ち上げたような枠を考え
枠から丸みをもたせた和紙がふんわりと立ち上がるような形状にしています。 -
ー
どのような和紙が使われているんでしょうか?
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翔
「rynka」という名前はスウェーデン語で「シワ」という意味があります。
その名前の通り、手で揉んだものやエッジが立ったものなど、
特徴が異なる3種類の和紙を使っています。和紙のシワによって光の陰影も強調されて、独特の表情になるんです。
自然光を受けると、まるで和紙自体がほんのりと光を放っているように見えませんか?
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ー
たしかに、人工的に光を当てているわけではないのに
ほのかに発光しているように見えます。 -
西尾
光の当たり方によって和紙が山に見えたり、雲に見えたり…。
すごく自然を感じられるテクスチャーなんです。 -
晴夫
例えば、窓辺に置くと、太陽の動きによって和紙と光の重なり具合が変わってくるんやね。
時間とともに変化する複雑な光と影の移ろいを楽しんでほしいと思います。
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今回のプロダクトで一番難しかった部分はどんなところでしょうか?
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西尾
和紙って形状にも対応できる素材なので、
「やなせ和紙さんならではの形」は何なのかをずっと考えていました。
柳瀬さんたちの技術なら、やろうと思えば何でもできてしまうけど、
「和紙でやらなくてもいいこと」まで、できてしまう部分があると思っていて。だからこそ、和紙の表情を美しく見せることを突き詰めて考えた結果、
このプロダクトに辿り着きました。
和紙の実験はまだまだ続く
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F-TRADを振り返って、一緒に取り組んだ感想を教えてください。
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西尾
今回のプロダクトは、
デザイナーがすべてをコントロールするのではなく、
作り手に委ねる部分を多く作ることで、
工芸的な側面を打ち出したいと考えていました。そのため、全てをデザインしすぎず、
和紙に関しては
柳瀬さんたちにお任せすることが多かったと思います。
僕が投げたボールに対して、
柳瀬さんたちがいつも予想以上のものを返してくださったので
本当にありがたかったです。 -
翔
「これを作ってください」という注文に応えるのではなく、
自分たちで考える余地を残してくださったので、
和紙の柄や質感についてもとことん追求できました。
頭を働かせながら紙を漉く、というのが楽しかったですね。 -
晴夫
私たちは職人として物を作ることに専念していますが、
やっぱりデザイナーさんは視野が広いですよね。
西尾さんもいろんな視点で和紙の良さを引き出そうとしてくださっているのがよくわかりました。 -
ー
最後に、どんな方に「rynka」を使ってもらいたいですか?
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晴夫
実用性を追求したものではないですが、
お花を活けたり、インテリアにこだわりを持つ方にぜひ取り入れていただきたいです。
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西尾
そうですね。ホテルや店舗などの商業空間はもちろんですが、
一般住宅にも自然に馴染むと思います。
インテリア商品でありながら、アート的な要素があるので、
やはり感度が高い方に手にとっていただけたら嬉しいです。 -
翔
日本の工芸の価値が伝わるようなお店に置いていただけると、
海外への広がりも出てくるのではないかと思っています。
いずれ海外の展示会にも挑戦できればいいなぁ。 -
西尾
今回の商品は2サイズ・3種類展開ですが、
お客様の要望に合わせて枠の色を変えたり、
柳瀬さんが試作した特別な和紙を使って限定商品を作ったりすることも可能だと思います。
そういう意味で、無限大に広がりを持つプロダクトですね。 -
晴夫
これからも、まだまだいろんな和紙の実験をしないといけませんね(笑)。
