福井の景色を漆で再現する、同級生の物語〜辻田漆店 x TIDS上島弘祥さん〜
福井県外を拠点とするデザイナーがチームを組み、
現代の生活に合わせてアップデートさせた伝統工芸の商品を
約8カ月かけて開発しました。
「開発ストーリー」では、商品を手掛けた職人とデザイナーに
プロジェクトを振り返っていただき、
開発の裏側やこだわり、ものづくりに対する考えなどを語っていただきます。
さて、二人からどんな話が飛び出すでしょうか。
お話を伺ったのは…
CRAFTSMAN
DESIGNER
WEB
同級生タッグで挑むF-TRAD
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お二人は高校の同級生だそうですね。
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辻田
そうなんです。
上島くんがデザイナーとして活躍しているのは以前から知っていて、
いつか一緒に何か作れたらいいなと思っていました。
そんな時にF-TRADというプロジェクトを知り、
「これは上島くんとやりたい!」と今回こうして実現しました。
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上島
ありがとうございます。僕は高校卒業後、美大に進み、
パナソニックでの勤務やドイツでの仕事を経て、
現在は東京で独立して活動しています。
辻田くんが僕の仕事を見てくれていたと聞いた時は、
本当にうれしかったですね。長年、福井の産業や伝統工芸に貢献できればと思っていたので、
まさに願ってもない機会でした。
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満を侍してのコラボだったわけですね。
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上島
あの…、せっかくなので「つじとも」って
高校の時の呼び名で話してもいいですか? -
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もちろんです。逆に辻田さんは上島さんのことを何て呼んでいたんですか?
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辻田
下の名前で「こうしょう」って呼んでました。
じゃあ今日は僕もその呼び方で。
漆のやわらかな鈍い光に魅せられて
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今回のプロジェクトはどのように始まったのでしょうか?
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上島
僕は漆に触れた経験も知識もほとんどない状態だったので
まずはリサーチから始めました。
工芸やものづくりに詳しい友人に辻田漆店のことを話すと
「あんないい漆が使えるなんてうらやましい」ってみんなが言うんです。 -
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すでに辻田漆店の名前が知られていたんですね。
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上島
はい、とにかくみんな口を揃えて「漆の質がいい」と言っていたので、
じゃあ、質の良い漆とはどういうことなんだろう、
なぜそんな良い漆ができるんだろうと
実際に工房に伺って、漆の工程を見せてもらいました。漆は木からとれた生漆を「ナヤシ」「クロメ」といった
独特の方法で精製していくんです。
その多くが手作業で行われていて、
機械を使った作業でも時間をかけて丁寧に作っているので、
漆の粒子が潰れない。
「だからいい漆ができるのか」と納得しました。 -
辻田
最初に来てくれた時は、3時間くらいいたよね。
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上島
そうだったね。工程もすごかったのですが、
辻田漆店では漆の水分量や色を確認するために、
ガラス板に塗られた濃度や色味の異なる漆の見本が
たくさんストックされているんです。
膨大なアーカイブを見せてもらい、
「漆ってこんなに繊細な色が表現できるのか」と感動しました。
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漆の印象が変わりましたか?
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上島
はい。
漆といえば黒や朱色の光沢のあるツヤが第一印象としてありましたが、
やわらかな鈍い光のような表現が出せることに驚き、
またそれが丁寧な漆の精製過程だからこそ作り出せるものだと知り、
漆の見方が大きく変わりました。 -
辻田
漆の魅力って言葉で表現するのが難しいんです。
「これが漆の良さなんだ」と言葉で押しつけるよりも、
こうしょうには感じるままに捉えてもらおうと思いました。まるで柔らかいものであるかのようなポテッとした感じや、
良い意味で鈍い感じは、漆にしか出せないものだなと思っていて。
こうしょうは飲み込みが早いというか、
僕が説明するまでもなく、いろんなことを汲み取ってくれるのが
本当にありがたかったです。 -
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まさに「思うままに感じてもらおう」という
辻田さんの狙い通りになったわけですね。
福井の景色が4つの色に
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あらためて、今回の「NIVI」はどのような商品ですか?
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上島
「NIVI」は、
福井の自然の風景からインスピレーションを受けた4色の漆です。
漆そのものの魅力を伝え、
福井らしさを感じられるカラーコンセプトになっていて
第一弾として今回はNIVIをまとったプレートを作りました。 -
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福井の風景を色に取り入れるというアイデアはどこから?
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上島
プロジェクトが始まった当初、つじともと
「生活のなかに漆が馴染むものが作れたらいいね」と話していました。
彼の言葉で「辻田漆店の漆が取り上げられること以上に、
漆の魅力に気づいてもらい、その価値が高まれば」と
きれいごとではなく素直に言っていたのが印象に残っています。
つじとも、覚えてる?
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辻田
覚えてるよ。
漆に携わる人は、漆の魅力を広めたいとみんな思ってるからね。
うまく言葉にできないけど、
漆とは思えないような鮮やかな色も素敵だけど
“より漆が活きる色合い”があると感じています。 -
上島
僕自身も長年デザインをやっているなかで、
暮らしのなかで感じる「地域ならではの色」があるだろうなと思っていました。そこで、福井の自然の中から漆の良さが伝わる色味と親和性の高い景色を探そうと、
福井県の北から南を車でめぐったんです。 -
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県内各地を?
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上島
そうです。
特に冬の時期の曇り空は、まさに福井らしい景色だなと思って。
曇天のグレーを中心に地域の色を見つけていきました。 -
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そこからグレーの「鼠空」に加え、厳しく荒れる海の「荒紺(青)」、
時を吸った「深緑(緑)」、錆びた磯肌の「紅錆(赤)」といった
4色が生まれていったんですね。
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上島
「紅錆」は最後に決まった色で、
実は最初、東尋坊の崖をイメージした「黄土色」に近い色を提案していたんです。
そうしたらつじともが「岩場の海岸の赤茶色」が気になると言い出して…。 -
辻田
越前海岸に行くと、水の中が赤茶けて見えるじゃないですか。
あれも福井っぽいなぁと思って。
そこから海岸の岩肌に着目しました。
漆で再現しようとするとなかなか難しかったのですが、
最終的にはどの色も生活に溶け込みやすく、
かつ漆の良さを引き立てるものになったと思います。
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プレートにしたのはなぜですか?
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上島
F-TRADはプロダクトを作って販売することがゴールです。
しかし、辻田漆店は漆を精製する工房なので、
プロダクトありきで進めてしまうと、
漆そのものの魅力が十分に伝わらなくなるのでは、と感じていました。そこで、工房で見せていただいた
ガラス板のアーカイブが美しかったことを思い出したんです。
デザイナーがスキルを持ち込んで形をデザインするのではなく、
つじともの普段の仕事そのものが生活の中に溶け込むようなものができればと思い、
プレートという形に辿り着きました。 -
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上島さんの提案を聞いた時の感想はどうでしたか?
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辻田
「“福井を語れる色”を世の中に広めていきたい」という考えに
ものすごく感動しました。
話を聞きながら、思わず背筋を正してしまったくらいです。 -
上島
面白かったのはつじともと膨大な漆のアーカイブを見ながら話していた時に
「いいね」という色が二人とも驚くほど一致したことです。
言葉を越えて感覚でつながっているな、とあらためて感じました。
「福井の色」がもっと身近になる未来を目指して
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NIVIをどのように使ってもらいたいですか?
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上島
「NIVI」はシンプルで汎用性のあるデザインなので、
食卓やインテリアといった生活のシーンから
商業空間のような場所まで、
幅広く使ってもらえたらと思います。ひとつの場所に何色か置いて
色のコンビネーションや調和を楽しむのもおすすめです。
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辻田
NIVIのプレートの色や大きさを組み合わせて並べることで、
生活の中に福井の風景がふわっと浮かび上がるような情景を
作り出してもらえたら嬉しいです。 -
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NIVIの今後について、お二人では何か話していますか?
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上島
「NIVI」の第一弾はプレートというニュートラルなプロダクトを発表しました。
この考え方をベースに今後も、シンプルなカップや小物入れのような
漆の良さが際立ちつつ日常生活に溶け込むものが作れたらと考えています。
また、漆という素材をもっとオープンなものにできればとも思っています。
これまで漆を使っていなかった業種の方にも、
色の選択肢のひとつとしてNIVIのカラーを取り入れていただき、
いろんな生活の場面や人と組み合わさりながら広がる未来を目指しています。 -
辻田
実際に辻田漆店では、これまでいろんなメーカーや業種の方々と
コラボレーションしながらものづくりをしてきました。
今後も業種の垣根を越えて、NIVIカラーを広めていくことで
「漆っていいな、福井の色って素敵だな」
と思ってもらえるような展開につなげていきたいです。 -
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今回のプロジェクトを通して、
お互いに対して改めて思ったことはありますか?
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上島
僕は今回、初めてつじともが漆の現場で働いている姿を間近で見せてもらいました。
色漆を作るとき、褐色の状態から、少しずつ色を足して
理想の色を作り上げていくものですよね。
その工程は技術だけでなく感覚的なところも大事だと思っていて
彼の色を見極めるセンスはずば抜けているなと思っています。高校までのつじともとは知らない一面で、
同級生という関係を超えて、職人として尊敬できる部分だと感じました。 -
辻田
嬉しいですよね(笑)。
僕は逆に、ものづくりを進める中で
こうしょうがどんなアイデアを出してきてくれるのか、
またそれを一緒にカタチにしていけることを常に楽しみながら進めてきました。高校時代から変わらないのは、
こうしょうが「普通のことをしそうでしない」ところ(笑)。
特別派手なことをしているわけではないのに、いつも人をワクワクさせる。
その魅力が今回のプロジェクトにも生きていると感じました。
貴重な機会をありがとうございました!
