若狭の技術を伝える、スタンダードなお箸

若狭の技術を伝える、スタンダードなお箸〜大岸正商店 × 長砂佐紀子さん〜

若狭箸 kihada / irosuki / washi F-TRAD MADE 2026 若狭めのう細工
「F-TRAD」では、福井県内の伝統工芸の職人と
福井県外を拠点とするデザイナーがチームを組み、
現代の生活に合わせてアップデートさせた伝統工芸の商品を
約8カ月かけて開発しました。

「開発ストーリー」では、商品を手掛けた職人とデザイナーに
プロジェクトを振り返っていただき、
開発の裏側やこだわり、ものづくりに対する考えなどを語っていただきます。
さて、両者からどんな話が飛び出すでしょうか。

お話を伺ったのは…

CRAFTSMAN

大岸俊介<span>さん</span>、大岸あや
大岸正商店
大岸俊介さん、大岸あやさん
国内塗箸生産シェアの約8割を誇る福井県小浜市で、1969年より3代に渡って箸屋を営んでいます。伝統的な技術を現代の食卓に合わせてアレンジしたお箸や、国産材を使ったお箸など、思わず手に取りたくなるようなお箸を、こだわりのパッケージとともに企画・提案している。 WEB

DESIGNER

長砂佐紀子
SUNA
長砂佐紀子さん
1989年奈良生まれ。京都工芸繊維大学・デザイン経営工学課程にて製品デザインを学び、卒業後株式会社中川政七商店へ入社。同社で木製品、陶器、服飾小物、食品など生活雑貨の商品企画・デザインを行いながら、ブランドマネージャーとしてブランドの運営や、コンサルティング事業にも携わる。その後メーカーにて、新規事業開発やブランディングに携わり、2018年に独立。つくりてに伴走するデザイナーとして、戦略づくりからものづくりまでを一貫して行う。
WEB

令和時代のシンプルなお箸

  • まず、F-TRADに参加したきっかけを教えてください。

  • 大岸俊介さん(以下、大岸・俊)

    2024年のギフトショー(展示会)で
    TSUGIさんと名刺交換したことをきっかけにお声がけいただき、
    参加を決めました。

  • 大岸あやさん(以下、大岸・あ)

    デザイナーさんと商品開発をした経験がなかったので、
    正直ハードルの高さは感じていました。
    先代の会社を継いでから、これまでは自分たちだけで商品開発をしてきたのですが、
    私たち二人のアイデアでは限界も感じていて。
    だからこそ、挑戦してみたいと思いました。

  • 長砂

    F-TRADには以前、若狭めのう細工の職人さんとコラボしたことがあり、
    今回またお声がけいただけてうれしかったです。
    前回のF-TRADをきっかけに福井とのご縁も増え
    「福井のものづくり、すごいぞ」という思いがますます強くなりました。

  • 長砂

    大岸正商店さんは、ご自身の感性で今の時代に合ったお箸づくりをされています。
    その背景を踏まえ、若狭の技術を活かし、
    今の世代の人たちが使いやすいシンプルなお箸を目指しました。

    海外産の木地が主流になるなか、
    若狭には産地内で木地加工までできる強みや、
    異素材を貼り合わせて意匠をつくるなど多種多様な塗りの技術もある。
    そうした産地の技術や得意分野を活かしたお箸づくりに挑戦しています。

  • リサーチはどのようにされましたか?

  • 長砂

    お箸の商流や市場を知るためにも、まずは現状把握から始めました。
    デスクトップリサーチに加えて、量販店やお箸専門店、
    ライフスタイル系のショップを回り、どのようなお箸がどんな形で展開されているのかを確認しました。

    併せて大岸さんたちにもヒアリングを行い、お箸の市場や既存商品のラインナップ、
    そしてどんなポジションで何を目指してものづくりをされているのかを把握しました。
    技術面では、若狭塗箸の製造を担う若狭塗センターさんに全面的にご協力いただきました。

若狭の技術を手に取れる塗り箸

  • 「kihada」にはどんな特徴がありますか?

  • 大岸(俊)

    「kihada」は、木地の表情を楽しんでいただけるよう、拭き漆風に仕上げた商品です。
    赤と黒の2色展開にしました。

  • 長砂

    「kihada」は木地をきれいに見せるのが難しかったですよね。

  • 大岸(あ)

    そうなんです。
    木地を見せようとするほど塗装は薄くなりますし、
    その分、合成塗料の箸の強みである食洗機対応が難しくなります。
    利便性とデザイン性のバランスを取るのが大変でしたね。
    また、持ち手の頭の形状についても検討を重ね、
    食洗機対応を考え強度のある丸い形状を採用しました。

  • 食洗機対応というのは大事なポイントなんでしょうか。

  • 長砂

    今回、若狭の箸づくりの中でも主流の合成塗料でお箸をつくることは当初から決まっていました。
    合成塗料のお箸は、漆塗りのお箸と比べて、価格を抑えられることや食洗機にも対応できる点が大きな強みです。
    この2点はマストで、最初から前提条件として進めていました。

  • 大岸(俊)

    できあがったサンプルをもとに、三者で知恵を出し合いながら、形にしていきました。

  • 続いて、「irosuki」の特徴を教えてください。

  • 長砂

    「加飾されすぎない、美しいお箸」を目指しました。
    リサーチを進めるなかで、合成塗料で食洗機に対応し、毎日使いたくなるような、
    価格と質感のバランスが取れたお箸が、案外少ないことに気づいたんです。
    そこで、あえてシンプルな方向に振りました。

    漆塗りのお箸に比べると、合成塗料のお箸はペタっとしていて、
    奥行きや味わいが出にくい印象があります。
    そこで、漆を幾重にも塗り重ね、下の層がほのかに透けて見えることで
    深みのある色合いを生む「溜塗り」のような表情を、
    塗りの技術によって合成塗料でも再現できないかと考えました。
    工芸的で静かな奥行きを感じさせる佇まいを目指しています。

  • カラーリングは、どのように決めましたか?

  • 大岸(あ)

    日常使いを前提に、家族でも使いやすいよう、5色展開にしました。

  • 長砂

    大岸正商店さんの、これまでの売れ筋なども踏まえて選んでいます。
    青は食欲を減退させる色とも言われるので、当初は避けたいと思っていました。
    ただ、箸先の木地を見せる仕様に変更したことで、それなら青もいけそうだなと。

  • 大岸(俊)

    若狭塗センターさんには、何度も試作をお願いしました。
    下地の色味を濃くしすぎると透け感がなくなってしまうので、その落としどころをどうするか。
    発色のいいサンプルに加えて、あえて色味を抑えたサンプルも作ってもらい、検討を重ねました。

  • 3つ目の「washi」シリーズの特徴について教えてください。

  • 大岸(俊)

    和紙を使って、若狭塗箸の技術である「貼りもの」を表現した商品です。
    F-TRADの最初に越前和紙の産地を見学した際、
    漉き上げた紙に水を落として模様を出す「落水」という技法を見て、
    若狭塗センターさんと「あ、これいいな」と話したのがきっかけです。

    一方で、和紙のお箸には、やり尽くした感もありました。
    これまで和紙を使った和柄のお箸を長く作ってきましたが、
    今の消費者のニーズとは少しずれてきているようにも感じていて。
    そのことを長砂さんに相談したところ、
    「貼ってみましょう」と背中を押していただきました。

  • 長砂さん、なぜ和紙を貼ってみようと思われたのですか?

  • 長砂

    若狭塗箸は、卵殻や松葉など、
    特殊な加飾技法で発展してきた産地です。
    和紙を貼ることで、
    そうした「素材を意匠に活かす」手法をなぞらえながら、
    現代の「若狭箸」としての輪郭がつくれると感じました。
    和紙と下地は、
    あえてなじみのいい色を選んでいます。
    塗料だけだとどうしても表面がペタっとしてしまいますが、
    和紙を貼ることで奥行きや質感が生まれます。
    和紙そのものを主役にするというより、
    テクスチャを生み出すための素材として和紙を使いました。
    新しい「貼り方」の提案になればうれしいですね。

  • 大岸(あ)

    中間発表の際に出したサンプルは、和紙の風合いもしっかり出ていて、
    たくさんの方に手に取っていただけるお箸になりそうだと期待しています。

若狭の箸づくりを、再定義する

  • 今回のF-TRADを通じての率直な感想を教えてください。

  • 大岸(あ)

    デザイナーさんと商品開発するのが初めてだったので、正直とても難しかったです。
    デザイナーさんにまかせきりでもうまくいかないですし、
    私たちの意見ばかりを通しても成立しないので、
    どこに着地させるのかのバランスが大変でした。

    ただ、こうした難しさは参加してみないと分からなかったことだと思うので、
    自社と向き合うことができた、学びの多い半年間だったと思っています。

  • 大岸(俊)

    商品が完成して、次に目指すのは「きちんと売れること」。
    多くの使い手に届くことで、関わった全員が前向きに取り組める商品にしていきたいですね。

  • 長砂

    価格帯の関係で木地を変更すると、デザインも変更せざるを得ないなど、悩む場面もありました。
    デザイナー、作り手、売り手の三者で話し続けてきて、ようやくいい塩梅に落ち着いてきました。

  • 普段の商品を作るアプローチとは違いましたか?

  • 大岸(俊)

    いつもは、工場からの提案に改良を加えたり、
    こちらのアイデアに対して工場からリアクションをもらったりする進め方が多いですね。
    長砂さんの、いろんな方向性から深く掘り下げていく視点が新鮮でした。

  • 大岸(あ)

    これまでは「こういう商品を作りたい」という発想から始まり、
    最後にネーミングを考えることが多かったです。
    今回の、コンセプトをしっかり固めてから商品に落とし込む進め方は、
    伝えるストーリーが整理されていていいなと思いました。

  • 長砂

    お箸は生産量が多い分、作り手にとってのリスクも大きくなります。
    だからこそ、デザインだけが先走るものにはしたくありませんでした。
    若狭というと今も伝統的な若狭塗箸のイメージが大きいですが、
    時代とともに発展を遂げ、今や日本の生産量の8割を占めています。
    木地づくりから塗りまでを高い技術で効率的に生産する今の若狭の箸づくりの魅力を、
    改めて再定義したいと考えてきました。
    効率的な生産といっても、若狭の箸づくりは実に手工芸的な丁寧なものづくりです。
    そんな今の若狭の箸づくりの魅力を伝えたいと思いました。

    会社がこれまでどんな商品を作ってきて、今どのポジションにいて、これからどうありたいのか。
    そうした背景を踏まえたうえで、本当に必要な商品を作りたいと思っています。
    半年ですべてができたわけではありませんが、
    会社にとってプラスになる商品にしたいと考え続けてきました。

  • 今後の展開についてはどうお考えですか?

  • 長砂

    今回は目新しさよりも「さじ加減」を整えることを大切にしました。
    合成塗料で、食洗機対応で、毎日使いたくなる。
    買いやすい価格帯で、質感のいいお箸。
    市場にありそうであまりない、絶妙なところを狙っています。

  • 大岸(あ)

    当社にもいろんなお箸がありますが、意外となかったシリーズです。
    どのお箸を選べばいいか迷う方に、若狭箸のスタンダードな商品として提案できそうな手応えがあります。

  • 大岸(俊)

    まずは、これまでお付き合いのある雑貨店やセレクトショップを中心に提案していきたいですね。

  • 最後に、意気込みや楽しみなことを教えてください。

  • 大岸(俊)

    シンプルなお箸だからこそ、バイヤーさんや一般のお客さまにどう伝えるかが大事だと思います。
    どんな言葉が刺さるのかを展示会で磨いて、量産に向けてブラッシュアップしていきたいですね。
    2月の展示会が楽しみです。

  • 長砂

    私も展示会を楽しみにしていますし、今回のお箸が、大岸さんのものづくり、
    そして若狭のお箸の魅力を伝える一歩になればうれしいです。
    ここからがスタートだと思うので、展示会に向けて一緒に仕上げていきましょう!

今回開発した商品はこちら